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指宿 菜の花 通信(No121) 「田舎医者の流儀(96)・・・聴診器」

 テレビドラマの中では、聴診器は相変わらず医者のシンボルである。しかし、現実の病院の中では聴診器を首に掛けている医者は少なくなってきた。我々の世代は超音波検査、CT、MRIなどの検査機器はなかった。視診、触診、聴診器による聴診などの所見が診断に到達するために大切であった。確かに検査機器は発達してきたがそこにもって行くまで、聴診を含めて基本診察が重要である事は現在も変わらない。

 初診の患者さんの場合、例え腹痛を訴えているにしてもやはり全身一通りの診察が必要である。一部の患者さんはお腹が痛いのに何で胸を見たり、聴診器を当てたりするのを怪訝な表情をされる方もいる。そこで脈の乱れがあったりしたら、心電図を検査する必要がある。心房細動(よくある不整脈)という不整脈があったら、心臓の中の左房・左心耳に血栓が出来、その血栓が飛んでお腹の血管を閉塞し腸閉そくを起こすこともある。血圧は必ず自分で測るようにしている。聴診器を当てて血圧を測ると、不整脈を見つけたり、上と下の血圧差が大きくて(脈圧大)心臓弁膜症などを疑うきっかけになったりする。

 私が診察する患者さんは高齢の方が多い。検診や風邪症状でみえても聴診器をあてることにしている。今まで指摘されていない心雑音を聴取することも珍しくない。特に高齢になってくると大動脈弁の硬化が起こってくるので、大動脈弁狭窄症が見つかることがある。この疾患は突然死を起こすこともあるので臨床的な意義は大きい。

 そうは言っても、高血圧や高脂血症でかかっている患者さんに、毎回毎回聴診をしているわけではない。少なくとも年に1~2回は聴診器を当てるようにしている。時に診察を終わった患者さんが受付で、「先生は、今日は聴診器も当ててくいやらんかった」と不満を訴える事がある。それは大体会話が少なかった時なので「ゴメンナサイ」と謝らざるを得ない。

 私の恩師佐藤八郎先生の診察は視診、聴診、触診など駆使して、詳細に患者さんの状態を把握、正しい診断にたどり着こうとするものであった。患者さんの話をよく聞き、丁寧に診察する姿勢を教えられた。そんな厳格な先生であったが、学生のポリクリ(実習)の際、聴診器を患者さんの胸に当て心音、呼吸音異常なしと言われた。しかし、よく見ると聴診器の耳に当てる部分(イアーチップ)は耳にはなく首にあった。そんなユーモラスな思い出と共に先生の教えを守もろうと思う日々である。

平成31年3月13日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦