その後、院内のトラブルがよく持ち込まれるようになった。ある古参の医長さんが「A科の医長さんが患者さんから責められて、一ヶ月位食事ものどを通らず、痩せこけていますよ。先生にすぐ相談するようにと話しておきました」と言ってきた。早速、その医長さんを呼んで、話を聞いた。「癌の疑いがあり、生検をした。その後、感染が起こり、熱発した。抗生剤で一旦よくなったが、再発を繰り返した。患者さんは怒って、対応に苦慮している」との事。
もちろん事実関係の正確な把握が必要であるので、詳しい調査をした。その部位の生検は感染を起こすことが知られており、当然、慎重に処置をし、術前に抗生剤も投与されていた。医療上はしっかりした考えと標準的なやり方で行っており、大きな問題点はなかった。しかし、感染が起こり、繰り返し患者さんは大変な苦痛を強いられたわけである。ある意味、「文句」言われても仕方がない状況であった。
その患者さんに来て頂いて、説明をすることになった。冒頭、私は立ち上がって、「このたびは大変な苦痛を強いることになり大変申し訳ありませんでした」と患者さんにお詫びした。そしたら、患者さんの顔がパッと明るくなり、「その一言を聞きたかったのよ。主治医が謝らないから、怒っていたのよ」。その後、いろいろの説明はいらない位であった。
その一回の交渉で、事態は解決した。その医長さんは、その夜スッタフ共々、美味しい食事とお酒を頂いたそうだ。翌日、私の所にみえて、「先生がパッと立って、謝られたのでびっくりした。我々は先輩から、軽々しく謝るな。裁判になったとき、不利になるぞと聞かされてきた、それで今まで、謝罪の言葉を避けてきた。謝っても良いのですか」と。
その時代(14~15年前)、確かにそのような考えもあったように思う。しかし、患者さんに苦痛を与えたことは事実なので、まずそのことは謝罪をする。その上で、医学的、医療上のことはしっかり検証し、こちらに非があれば、それなりの責任を取ることになると話した。今は、一般的になったが、その時代においては、そんなふうであった。
その後まもなく、リスク担当の専任看護師長が配置された(H14年)。院内で問題が起こると、すぐ飛んで行って事態を把握、必要なアドバイスをするようになった。現場スタッフは起こるトラブルを全て経験しているわけではない、経験を蓄積した部署が必要なことは当然であった。
平成26年2月17日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






