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指宿 菜の花通信(No.31)「田舎医者の流儀(6)・・・ムンテラ」

医師が患者さんや家族に病状や治療方針について説明することをムンテラ(MundTherapie)と呼んでいる。インターネットで調べるとあまり良い意味では使われていないような記述もある。患者さんに解るように説明するのがムンテラだが、意を尽くして説明をしても理解して頂けないことも稀ではない。理解して頂いていない場合、若先生方に「お前の説明が不十分だからだ」言うとたいてい「説明しましたよ」とムクレル事が多い。しかし、相手に理解して頂けなかったら、解るような説明をしなかった事に問題があると敢えて言っている。

検査して病気が見つかれば、それを説明(ムンテラ)することはそれほど難しい事ではない。例えば、「胸に締め付ける痛み」があると来た患者さんに必要な診察・検査を行い、心筋(心臓の筋肉)虚血を示す所見があると「狭心症」の疑いが強くなる。狭心症の病態、今後必要な検査を説明する。検査で心筋虚血の原因として冠動脈狭窄が証明されたら、いくつかの治療法を説明する。合併症など慎重に検討、粛々と治療に取り掛かっていく。それぞれの段階でムンテラが行われる。

いろいろの訴えのある患者さんに種々検査して器質的疾患がない場合、逆に難しい事もある。多くの場合、丁寧な説明をすれば納得して頂ける。しかし中には「こんなに苦しいのに何もないとはおかしい」と不満を訴える方もいる。「何もないですよ」ということはなかなか難しい、人の体は複雑なので全部絶対大丈夫かと言えばそれほど簡単ではない。そこで、こちらがあいまいさを感じさせる説明をすると、そういう患者さんは納得せず、ドクターショッピングに追いやってしまう。医師としての経験と知識が試されることになる。

外科の患者さんが重症で次々に治療の難しい事態が発生し、主治医が懸命の治療を行うも改善しない。患者さんの娘さんは医療関係者、母親の病気を心配し、毎日、土・日曜も説明を求めた。それも自分の勤務の都合で午後7時からである。主治医は土・日曜も出てきて、希望される午後7時に説明を行った。不幸にして患者さんが亡くなった、娘さんは「治療過程に不満がある、十分な説明を受けなかった」と言い出した。私は報告を聞き、主治医が自分の生活、家族を犠牲にし、懸命の診療をしていることを知っていたので、悔しい思いをさせられた。事情を知らない人が一方的な意見を聞いたらなんと酷い主治医だと思うかもしれない。

「ムンテラ」、この時代、患者さん、家族の状況を配慮しながらも、できるだけありのままに隠しだてしないで説明し、カルテに記載するようにしている。

平成24年4月10日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦