1935年、米国コーネル大学栄養学者クライブ・マッケイ博士は「実験用マウスの摂取カロリーを65%に制限すると平均寿命が2倍近く伸びる」と報告した。その後、様々な動物でカロリー制限により寿命が1.4~1.9倍延びる事が明らかにされてきた。米国・ウイスコンシン大学のチームは76匹のアカゲザルを使って20年間研究し、成人した後(15歳)、通常食群と30%減群に分けて飼育、カロリー制限群はしわや白髪が少なく、生活習慣病や老年病で亡くなる数が1/3に減少、平均寿命も長くなったと発表した(2009年)。
カロリー制限が寿命を延ばすメカニズムについては多くの研究が行われている。ボストン・マサチューセッツ工科大学L・ガレンテ教授は酵母寿命の研究から長寿遺伝子サーチュインを発見した。その後の研究で、サーチュインは様々な長寿を司る遺伝子群を発現させる司令塔であると考えられるようになってきた。カロリー制限によりサーチュインが活性化され、体のエネルギー産生を司るミトコンドリア力をアップし、このことが長寿に結びついていると考えられている。
肥満症では脂肪細胞が肥大化してくる。正常の脂肪細胞はエネルギーの貯蔵庫として中性脂肪を蓄え、動脈硬化を防ぐホルモンを出し、最近ではサーチュインを活性化する物質を出す事も明らかになってきた。一方、肥満した脂肪細胞は血圧を上げ、インスリンの働きを邪魔するホルモンを出し、高血圧症、糖尿病、脂質異常症を悪化させる方向に働く事が明らかになってきた。
世界経済はリーマンショックから十分立ち直れない状況下で、更にギリシャの財政破綻などもあり「二番底」に向かっているのではと懸念されている。現在の経済危機を作り出しているのはどうも金融資本の暴走にあるようだ。金融は正常に機能しているかぎり、実体経済を発展させる方向に働き、新しい産業の創出など経済発展に貢献してきた。しかし、今の過度に肥大化した金融は発展したコンピュ―ターを駆使し、実態に合わない取引を繰り返し、利ざやを稼ぎまくっている。ギリシャの財政破たんを誘導したのも債権隠しを指南し、利ざやを稼いできた投資顧問会社にあるという(ゴールドマン・サックス研究 神谷秀樹 文藝春秋社)。
正常の脂肪細胞は体の機能を保つ方向に働き、一方、過度に肥満した脂肪細胞は体の機能を悪化させる方向に働く。経済における金融も正常に機能しているかぎり、実体経済を発展させる方向に働き、過度に肥大化した金融は経済を食い物にし、破壊する。本来の役割以上に過度に肥大化した「脂肪細胞」と「金融」は「人の体」と「経済」を破壊してしまう点でよく似ている。
平成24年3月6日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






