昨年、助産師がビタミンKを与えるべき新生児にホメオパシー治療薬を投与し、死亡に至った事件があった。それを重くみた日本学術会議は代替え医療の一種「ホメオパシー」について「その治療効果は科学的に明快に、否定されている。それを効果があると称して治療に使用することは厳に慎むべき行為」との会長談話を公表した(8/24)。これに対して、長妻厚生労働大臣は「本当に効果があるのかないのか厚労省で研究していきたい」と述べたそうだ。
ホメオパシーは原理的には症状を起こす原因物質を水で薄め(1060倍も)、攪拌し、それを砂糖玉にかけて飲ませるという療法である。出来るだけ薄めた方がよく、その水に原因物質のオーラ、波動が染み込み、体の抵抗力を引き出し、自己治癒力などが高まるとする。しかし、この理屈はとても現代科学では認められない荒唐無稽であるというのが学術会議の立場である。
米国初代大統領ジョージ•ワシントンは1799年、化膿性扁桃腺炎に罹り、67歳で亡くなった。現在であれば抗生剤中心で治療すると思うが、その時は大量の瀉血が行われた。記録によれば2日間で2.5リットルの瀉血が行われたという。最後の瀉血はあまり血が出てこなかったという。人の血液量は約5リットルであるので、約半分が瀉血されたことになる。現在ではこの瀉血による大量出血(?)と脱水が死亡の原因ではないかと考えられている。
瀉血はギリシャ医学に端を発し、西欧では長く行われた治療法で、当時の医学では主流であった。従って、アメリカ大統領に当時、最も有効と考えられていた瀉血治療が行われても当然であったといえる。しかし、現在、特殊な例を除きこの治療がおこなわれる事はない。現代医療はその治療法が有効であるか否かを科学的な臨床試験を行い検証してきた。瀉血療法も1809年、A・ハミルトン(スコットランド人軍医)によって有効性を検討する臨床試験が初めて行われ、瀉血療法を受けた患者の死亡率が高いことが示された。その後の臨床試験でもこの治療法の有効性を示す事は出来ず、段々行われなくなった。
テレビコマーシャルみたいに「良くなったような気がする」という個人の感想で、その治療が有効であるということは出来ない。現代の医学では原則、いかなる治療法も科学的な臨床試験を行い、有効性が証明されなければならない。ホメオパシーは科学的臨床試験でプラセボ以上の効果はないと結論づけられている。今更、「厚労省」が研究する事もなかろうと思う。
平成22年9月10日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






