先輩のO先生が88歳で亡くなった。過日胃がんの手術を受けられ、元気にしておられたが最近食事ができなくなり、体重減少・体調不良になっておられたという。それでも2週間前まで診療されていたという。診療が大好きであった先生らしい生き方であったと思う。後輩のK先生は食事をのどにひっかけて亡くなったようだ。お二人ともエコー技師を育てることに熱心で本県で多くのエコー技師が活躍している基盤を作られた功労者である。
この年になると身近なところでいろんな死に方に遭遇する。死に方を自ら選択することは難しい。私には死に結びつくような病が今2つある。昨年6月に見つかった膀胱がんと前立腺がんだ、昨年年末の検査では二つともコントロールされていて、今すぐ死と結びつく状況にはない。今は前兆もないが、心臓病(例えば心筋梗塞)、脳梗塞、解離性動脈瘤などは何の前触れもなしに襲ってくる。癌と血管病は2大死因だ。
「ゴリラが死を目前にしたときは、野生でも動物園でも、だんだん食べなくなる。食が細くなり、筋肉や脂肪も落ちて、どんどんガリガリになっていく。体力が衰えて、死とどう向き合うか最後は耳もあまり聞こえなくなり、自然にスーッと死んでいく。それはまるで仏教の世界でいう即身仏―食を絶って聖なる存在になっていくようにすら感じる。」 (老いの思考法(一部改変) 山極寿一著 文藝春秋)現実には難しかろうけど、ゴリラのように死ねたら良いなと思う。朝起きて来ないので見に行ったら亡くなっていたでも良いな。
がんを予防することはそう簡単にはいかないし、決定的な方法があるわけでもない。がん細胞は健康な人の体で毎日数百から数千個発生すると言われている、通常は免疫細胞によって排除される。しかし免疫細胞の認識ミスや老化による免疫力低下などが原因となり、生き残ったがん細胞が成長することでがんとなっていく。がん細胞の発生は抑えられないので、出てきたものを免疫等の力で無力化するほかない。
サーチュインという遺伝子がある、長寿遺伝子を発現させる司令塔である。この遺伝子が活性化しているとがん細胞を抑制する方向に働く。サーチュインはカロリー制限、寒さへの暴露などで活性化する。今井眞一郎博士はNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクオチド)がないとサーチュインが働けないことを発見した。NADは高齢になると減少してくる。そこでNADを補ってあげると良いのではと考えられているがはっきりしたエビデンスは未だ得られていない。糖尿病の薬でメトホルミンという薬があるが、これで癌の発生が抑えられ長寿をもたらすことが証明されている。癌の発生は100%抑えられないのでできるだけ早期に発見し、治療が出来るとよい。癌の早期発見は健診を受けるしかない、年に1回は健診を受けて癌の早期発見に繋げたい。
血管病は動脈硬化を基盤にして起こる。心臓の血管―冠動脈に起こると心筋梗塞、狭心症のもとになり、脳の血管に起こると脳梗塞の原因となる。コレストロールのうち悪玉コレステロール(LDLコレストロール)が高いと動脈硬化を進める。最近は効き目の良い薬があるのでコントロールしやすい。これらの薬はコレストロールを下げる働きは勿論だが動脈硬化部分を引き締めて破れにくくする効果があるという。動脈硬化があっても破れなければ血栓閉鎖は起こらない。糖尿病や高血圧も動脈硬化を促進する。いずれも有効な薬があるのでうまくコントロールしていきたい。
高齢になると認知症も起こってくる。かつて優秀な人にも起こってくる。医学部の教授までされた方が晩年認知症になられた方が何人もおられる、等しく平等に誰にでも起こりうる。これも有効な予防法はないが運動が唯一有効と考えられている。脳の血流を増やす有効な薬はない、歩けば脳血流は増える。認知症予防は歩け歩けだ。
令和8年2月6日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






