生物学者であるエドワード・オズボーン・ウィルソン(1929-2021)は幼年期からアリに異常な関心を持ち、その膨大に蓄積された知識と好奇心によって発見された新種、および生態に関する発見は昆虫の研究に大きな発展をもたらした。アリが複雑な社会を形成していることや、フェロモンを使ったコミュニケーションを取っていることはなどの解明に多大な貢献をした人物だ。
(生物学を進化させた男 エドワード・O・ウィルソン リチャド・ローズ著 草思社)
同時期にハーバードの生物学学科にいたのがフランシス•クリックとともにDNAの二重らせん構造を発見したジエームズ• ワトソンだ、フイールド生物学者のウイルソンに対し、ワトソンは実験生物学者で、いまや生物学の探究は実験室で進めるべきだと確信していた。ウイルソンは綴っている「表立って彼をとがめる人はほとんどいなかった。ウイルソンは傲岸不遜なワトソンを嫌ったが彼の不遜な態度は、偉大な発見とその余波のおかげで見過ごされた。1950年 代と60年代、分子革命が牛物学全体を鉄砲水のように席巻した。ハーバード大学生物学科内でそんな確執があったとは歴史の一コマとして興味深い。現代風に言うとハーバード大学でのアリの研究は認められるのだろうか? トランプ流の考え方ではこうした昆虫に関する研究は可能なのだろうか、聞いてみたい気がする。
世界の優れた人材がなぜ、ソ連や今の中国ではなく、アメリカに来て勉強したがるのか。やはりそれは、開放性や多様性があり、どんな国の人でもアメリカに来れば自由に発言や好きな研究ができるからだ。 アメリカは豊かさだけではなく、自由や民主主義、そうした価値がきちんと尊重されているという信頼があったから、みんなアメリカを目指したわけだ。結果として、アメリカが強制したわけではなく、世界の有望な若者たちが自分の意志で、学生として研究者として、アメリカにやってきた。 本国へ帰った人たちは、アメリカに特に強制されずとも、アメリカの豊かさや自由への好意的な印象を本国に持ち帰り、自然と本国の親米エリートになる。アメリカに残った人たちも、価値ある研究を続けたり、企業を立ち上げたりして、アメリカをさらに魅力的で豊かな国にしてきた。そんなアメリカがトランプによって失われようとしている。悲しい現実だ。
ソ連は非常に権威主義的で閉鎖的だ、だからこそアメリカは民主主義を大切にし、開放路線でいく。その姿勢がアメリカを強くし、魅力的にしてきた。中国が人権侵害や閉鎖的な政策をとっていても、こういう姿勢だったからアメリカは信頼され、魅力があった。当たり前だが、「あなたはスパイだ」となんの根拠もなしに言われ、逮捕・投獄されるような国には行きたくない。
令和7年9月12日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






