農園のバラが咲いた。ハチがどこからか飛んできて蜜を吸って帰って行く。次から次にハチが来て採蜜して帰って行く。「ここに花蜜があるよ」という情報が伝わっているのだろうか、多くのハチが飛んで来て、帰って行く。
力—ル•フォン•フリッシュは、20年前に気づいていたミツバチの奇妙な現象の研究を大戦未期に始めた。フォン.フリッシュは、豊富な花密や花粉を見つけて戻った探索バチが、巣箱内の垂直な巣板の上で、何とも不思議な行動をとることに気づいていた。それはまるで「ダンス」のようだった。帰巣した探索バチが、ある決まったパタ—ンの反復的な動きを数分間ほど続けると、巣箱内の他のハチが熱心にその「ダンサ—」の動きに従った。フォン•フリッシュは1920年代にすでに、これらのダンスには、食糧源となる花に関する情報を伝える機能があるのではないかと考えていた。
1945年、戦争終結前後の数カ月間にフォン・フリッシュは、ミツバチのダンスに、探索バチが見つけた餌場の方向と距離を示す記号が合まれていることを発見した。空間座標軸を表現する昆虫の記号的コミュニケ—ションシステムという、この還暦間近の生物学者がついに成し遂げた発見に対し、やがてノーベル生理生理学賞が授与されることになる。
このダンス言語の仕組みは、餌場からから蜜を持ち帰ったハチはまず、体を左右に震わせながら直進する(尻振り走行)。その後、左にぐるりと半円を描いて.元の位置に戻ってくると、最初の道筋に沿って再び尻振り走行を行ない、続いて、今度は右にぐるりと半円を描く。このパターンを何度も繰り返していると、巣箱内で仕事に就いていないハチたちが熱心に付き従うようになる。このようなダンスが始まってほどなく、新たにリクル—卜された多数の採餌バチが、その情報をもとに餌場へと飛んでいく。
フォン.フリッシュは、巣箱の鉛直上方に対する尻ふり走行の角度は、太陽の方位角(方向の水平成分、すなわち、仰角ではなく(コンパス方位)と、巣箱から餌場に向かって飛ぶ方向との角度に等しい事を発見した。たとえば、餌場が太陽の方位にある場合、ダンサ—は、鉛直な巣板の真上に向かって尻振り走行する。 餌埸が太陽の方位よりも45度“方向にある場合ダンサ—は、鉛直な巣板の真上よりも45度右方向に向かって尻ふり走行する。また、タ—ゲットとなる蜜や花粉が豊富な花畑までの距離は、尻振り 走行の継続時間として記号化される。つまり、尻ふり走行している時問が長いほど、巣箱から餌場までの距離は遠い。
巣箱内はたいてい暗いので、他のハチはそのダンスを視覚的に捉えることは不可能だが、同じ動きを何度も繰り返すダンサーに追従しながらその動きを感じとることによってそれに込められた暗号を読み取っている。フォロワーたちは、ダンスに参加しながら、示された位置情報を学び取ってそれを解読したのち、その情報を受け取った埸所とはまったく異なった空間にあてはめているに違いない。実世界での空間的位置を伝えるために、このような記号化された情報(表象)用いる生物は、(ヒ卜を除いて)他にはいない。
ハチは生き抜くために、餌場の情報をお互いに伝えあっている。ハチの持つ脳は小さいがすごく賢いことが分かってきている。すごいね !!
(ハチは心をもっている ラース・チットカ著 みすず書房)
令和7年7月17日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






