2000年初頭、南アフリカ共和国のタボ.ムべキ大統領は、エイズ対策を講じるための専門家会議を招集した。この会議はきわめて重要なものだった。というのも、当時の南アフリカ共和国はHIV感染率が世界一高く、成人の20パーセント近くが感染している状態だったからだ。会議終了後、ムべキ大統領は次のような談話を発表した。「エイズの原因はウイルスではなく免疫力の低さであり、ニンニク、ビーツ、レモンジュ—スの摂取により治療できるようだ」。これに対し、国内外の何百人もの科学者が大統領に再考を求めたが、その願いは一顧だにされなかった。
2005年、南アフリカ共和国では一日900人近くがエイズが原因で死亡した。ハーパード公衆衛生大学院の研究によると、ムべキ大統領の科学否定によって2000年から2005年にかけて生じた早期死亡は、3万5000人にのぼると見られている。
(エビデンスを嫌う人たち リーマッキンタイア 国書刊行会)
アメリカ議会上院は、公衆衛生などに関する政策を担う厚生長官としてロバート・ケネディ・ジュニア氏を承認した。ケネディ氏は、たびたびワクチンに疑問を呈してきたことから「ワクチン懐疑派」として知られていた。ケネディ氏は環境保護派の弁護士で、新型コロナウイルス禍を陰謀と決め付けたり、ワクチンと自閉症を結び付けたりするなどしてきた。
ケネディ長官はフォックス・ニュースのインタビューで、「麻疹の患者が高濃度のビタミンAとDを含むタラ肝油で治療を受けて、効果をあげている」と語りました。麻疹は非常に感染力が高く、ワクチンを接種していない場合の感染率は90%に上ります。CDC米疾病予防管理センターによれば、幼稚園児の麻疹ワクチンの摂取率は9割を超えていますが、2019〜20年の95%から2023〜24年の93%と減少傾向にあります。接種が減った原因は、コロナ禍を経て広がったワクチンへの懐疑的な見方ですが、当のケネディ長官もワクチン懐疑論者として知られてきました。
1875年、フィジーの王様とその息子二人がオーストラリアのシドニーを公式訪問し、その際、フィジ—王が現地で麻しんにかかった。幸い、王はそのまま治ったが、すぐに王子二人が感染した。そして、彼らはその足で母国フィジー島に戻った。燎原の火の如く、あっという間に麻しんの感染がフイジーの国中に広がった。その結果、当時の人ロ約15万人のうち、なんと約4分の1にあたる約4万人が亡くなったのである。このつらい経験から人類はワクチンの重要性を学んだ。
しかしワクチンには一定の副反応が起こる。ところが、ワクチンの副作用を過剰に煽る人たちがいて、彼らの多くが医師や医学博士という肩書を持つことから、その主張はもっともらしく聞こえ、それなりの支持が得られているようだ。しかし、ワクチンや免疫機構に関する初歩的な事実が見落とされ、しばしば医学的に誤った主張がなされている。こうした情報に翻弄されると、かえって健康被害を受けることになる。 (免疫力を強くする 宮坂昌之 講談社)
エビデンスに基づいた事実で対策を進めることが重要で、政治的立場等は関係ない。当たり前を当たり前で運用する世の中であって欲しいものです。
令和7年7月4日
国立病院機構指宿医療センター 総合内科
中 村 一 彦






