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指宿 菜の花 通信(No256) 田舎医者の流儀(231)・・・老いとの出会い

 86歳のご婦人が主治医の紹介で診察に見えた。「息が苦しい」体がだるい」「ふらふらする」「顔が突然火照ってくる」など多彩な症状があり、主治医は点滴をしたり、懸命の治療をしているけど良くならないという。辛そうにして来院され、付いて見えた娘さんと長男の嫁さんは困惑している様子であった。

 主治医はいろいろ検査もしているが、器質的疾患はなさそうである。息苦しいなどの循環器系の訴えが主のようであったので心肺機能を再度チェックした。心電図、胸写、心エコー図検査はいずれも異常なく、血中酸素飽和度も正常であった。その結果を詳しく説明した。「異常がないと言われるけど私は苦しいの、どうしてですか」と不満そうである。「老いと自律神経の不安定が重なって症状が出ているのです。命にかかわる重大な病気はないです」と説明した。「年取るといろんな事が起るので、それと受け入れて暮らしましょうよ」とも話した。

 私も80歳になり、老いとの様々な出会いをしている。眼は老眼で眼鏡なしには暮らせない。メガネは本読み用、パソコン用、少し離れてみるテレビ用と基本3種類必要である。30年来の糖尿病があるので食事は制限しているが、小食になってあまり食べられない。かつて68kgあった体重は今や50kg位、いくら何でも痩せすぎと思い食べようとするけど入っていかない。家人からはちゃんと食べなさいとお叱りを受ける。それがまた変なもので外食したりするとそれなりに食べる。家人は機嫌が悪くて「外ではよく食べるのね」と皮肉を言う。

 歯も悪くなった。歯医者さんに行っているけど、入れ歯が必要との事。快適に食べたいので入れ歯を作ることにした。歯医者さんが勧める入れ歯はうん十万もする。仕方がないのでそうしてもらう事にした。老いた身にはさまざまの事が起こる。これからどこにまた故障が出てくるのやら、未知との遭遇だ、老いと付き合うのは容易でない。

 物忘れがひどいのも困りものだ、仕方ないか。運動能力の低下もひどいものだ、ゴルフをしているけど飛距離も信じられないぐらい落ちた、恥ずかしながら150ヤードのショートホールをドライバーで打つ有様だ。スコアもやっと100を切るぐらいになった。それでもゴルフ出来ているのを良しとしなければという心境だ。老いに伴って出る症状は本人にとってはかつて出来ていたことが出来ななくなる事であり、素直には受け入れがたいものだ。

 ただ、老いて良いこともあるよ。働く時間も週2日になったし、毎日働かなくても皆さんが違和感なしに受け入れてくれる。現役の頃毎日あった「会議」にも出なくて良い、何よりも嫌な人とは飯を食わなくても良くなったことは嬉しいね。気の合う人と屈託なしに飲み食いが出来るのは最高だね。年取ったら出来なくなる事も多くなる、それはそれで受け入れて生あるを喜び、楽しまなくちゃ。

令和6年7月3日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦