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指宿 菜の花 通信(No248) 田舎医者の流儀(223)・・・・アルツハイマー病

 アルツハイマー病治療薬・レカネマブが認可され、使えるようになるようだ。使えるのは、「アルツハイマー病」の患者で、脳に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質がたまっていることが確認できた人に限られる。認知症の専門医によると、レカネマブの投与対象となる患者は、認知症患者全体の1割未満という。この薬は高額で、1人あたり年間およそ298万円掛かる。(2023年12月20日から保険適用)

 「アルツハィマー病は高齢期疾患の一種であり、正常な脳機能を何年もかけて不可逆的に破壊する進行性の病である。病状が進むあいだ、患者は自らに著しい変化が生じていることをおおむね自覚していない。新しい記憶が形成できなくなることがきっかけとなって、何か問題が起きていることが初めて察せられるケースが少なくない。その後、患者は複雑な作業を遂行する能力を失っていく。病状の進行につれて言語技能と推論能力が衰え、判断力も落ちていく。抑鬱や無関心といった人格変化が始まり、予期せぬ感情の爆発や、攻撃性や興奮も伴う。正しい方角を見つけてそこへ向かう能力が低下するため,途方に暮れて徘徊することにつながる。こうした変化のそれぞれについて、機能不全の度合いは時とともに重篤さを増していく。このように患者の知的能カは,悪化の一途をたどるものの、病気が進展していっても身体面では健康がほぼ保たれる。 ただし最終段階に至ると患者は寝たきりになり、排泄を制御できず、言葉を発しなくなり、反応を示さなくなる。」このようなアルツハィマー病の臨床像については臨床家・研究者間に殆ど異論はない。

 アルツハイマー病と認知症はどう違うのか。答えは単純で、アルツハイマー病とは認知症の.一種だ。パーキンソン病やハンチントン病もかなり進むと認知症を併発する場合があるし、血管性認知症、HIV関連認知症、レビー小体病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺もそれぞれ認知症の一形態と認識されている。認知症は非常に大きなくくりであって、加齢に伴うさまざまな知的能力の喪失がそこに含まれるということである。

 「アルツハイマー病」患者は、脳に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質がたまること事で発症するといわれ、本症の原因とされている。しかし、高齢者のおよそ30%にはアミロイドβのブラークはあっても認知症がなく、15%には認知症があってもプラークがない。「アルツハイマー病」患者の脳病変の変化をアミロイド沈着のみで説明するには無理があるとする考えも根強い。従って、新薬(レカネマブ)の効能については期待をされている割には、限定的とする見方もある。

(参考文献:アルツハイマー病研究、失敗の構造 カール・へラップ著)

令和6年2月2日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦