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指宿 菜の花 通信(No229) 田舎医者の流儀(204)・・・11連休

 今度の連休は私には11連休となった。指宿医療センターでの診察日水、金が祝日に当たり、4日木曜ゴルフ日が孫対応で中止となり、都合11日連続の休みになった。この11日間連日農園に「出勤」した。3日までの5日間は天気も良く、庭の清掃に精出した。後半4日から7日までは雨で小屋に籠って本読みをした。最後の2日間はまた晴れた。

 苔庭は春先、大型鳥のミミズ求めの掘り返しに悩まされて来た。それへの対策で、昨年暮れから防鳥用ネットをコケの上から被せる策をこうじた。ネットは枯竹で作ったフックのつい「竹釘」で固定した。今年春先は、これで鳥の掘り返しを防止来ている。ただこの時期、常緑種の葉っぱが新しい葉に入れ替わるので多量の落ち葉が発生する。その除去は容易ではない。大きな葉っぱはブロアーで吹き飛ばせるが、小さな葉っぱや茎はコケとネットの間に入り込み除去が難儀である。コケのモスグリーンを目立たせるには「ゴミ」(白っぽい、灰色っぽい)を除去しなければならない。丹念に手を入れないとコケ庭は本来の美しさを表せない。お天気の良かった5日間はこの作業にかかった。

 最近、抹茶を飲むことが多くなった。抹茶用お椀にスプーン1杯の抹茶を入れ、お湯をかけ丹念に混ぜるだけなので簡単に出来る、少し甘みのある抹茶をすするとおいしく頂ける。後片付けもお椀を洗うのみなので面倒でない。書店で「月曜日の抹茶カフェ」という本が目についた、エッセイかなと思って読み始めたら、小説であった。若い人たちが抹茶をのみ、そこに集まる人々の人間模様が書かれていた。お互いの関係性は深くなく、さらりとしている、これが現代風かなと思った。私の世代の関係性はもっと濃いので、いい悪いは別にして現代風をそんなことだと理解をすることは必要なのだろう。

 2冊目は「格差の起源」という少々重たい本、1回で十分理解出来なかったので2度読みした。少し著者の言わんとするところが分かったかな・・・・。本書によると「今から30万年近く前にホモ.サピエンスという種が出現して以来、人類史の大半で、人間の生活の主眼も一言で言えば生存と繁殖の追求であった。生活水準はかろうじて生きていける程度にすぎず、その後どの時代にも、地球上のどの地域でも、その状態はほとんど変わらなかった。ところが不思議にも、最近のわずか数世紀(約200年)で人類の暮らしは激変した。長大な歴史の流れの中で捉えれば、人類は事実上一夜にして、生活の質における前代未聞の飛躍的向上を経験したのだ。」

 マルサスの罠という理論があるという。「産業革命以前のある村で、住民が鉄製の荤を使って小麦を以前より効率よく栽培する方法を工夫し、パンの生産能力がぐんと高まったとしよう。当初は村民の食事が改善し、余剰食糧の一部を売ることで、生活水準は向上するだろう。食糧が豊富なおかげで、仕事量を減らして余暇を楽しむことさえできるかもしれない。しかし、マルサスはその先が肝心だと論じた。余剰食糧があるおかげで元気に成長する子どもが増え、村の人口は時とともに増加するだろう。ところが、村で小麦栽培に使える土地にはどうしても限りがあるため、人口が増えるにつれて1人当たりのパンの割り当ては徐々に減る。いったん向上した生活水準は落ち始め、村民1人当たりのパンの量が当初の水準に戻った時点で、ようやく下げ止まる。技術の進歩によって集団は大きくなるが、残念ながら、長期的には豊かにはなれないということだ。」

 「あらゆる生物が、この罠にはまってきた。ある島にオオカミの群れがいたとする。地球の寒冷化によって海面が下がり、別の島への陸橋が現れた。その島ではウサギの群れが平和に暮らしている。新たな狩り場に恵まれたオオカミたちは、獲物が増えることで生活水準が上がる。成獣に達する子オオカミが増え、個体数は爆発的に増加する。ところが、限られた数のウサギを餌食とするオオカミミの数が増えるにつれて、彼らの暮らしは寒冷化以前の水準へと徐々に戻っていき、個体数は増加から停滞に転じる。手に入る食糧資源が増えても、長期的に見れば、才オカミたちの暮らしは楽にならないのだ。」

 「マルサスの罠を人類が克服していくには産業革命による技術革新が必要であった。それでも広い地球上には地理・機構・文化・資源など多様であり、各国の発展には格差が生じた。」人口衛星画像で見ると朝鮮半島は38度線を境にして南と北は明確に区別され、夜、韓国側は明るいが北側は真っ暗である。韓国のー人当たりの所得水準は2018年に北の隣国の水準の24倍、平均寿命は2020年には韓国が北朝鮮より11年長かった。その他の尺度で生活の質を計っても、それに劣らず劇的な違いが見られる。1950年まで朝鮮は同一国家であったがこの70年国家体制は異なった。政治体制の違いという一つの要因で大きな格差が生じた。ただ一般的には世界の格差の要因は単純ではなく、いろいろな要素が関連している。本著はそこのところを詳細に分析しており、大変読み応えがあった。まだまだ知らないことが多いな・・・。

 3冊目は土竜(もぐらと読むそうだ)という高知東生という俳優(元?)さんが書いた小説だ。高知さんは中堅の俳優さんであったがラブホテルで愛人と覚せい剤を使用、現行犯逮捕され執行猶予付きの刑を受けた。奥さんが美人の女優さんで、なんて男だと思った記憶がある。その彼が書いた小説だ、自伝的小説でいいわけもせず自らを深く見つめた出来の良い小説に思えた。これを期に更に作家として次の作品に期待したい。

 11日間の連休は長いようで短かった。連休最後の日、もう終わりかと思いながら過ごした。

令和5年5月12日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦