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指宿 菜の花 通信(No189) 田舎医者の流儀(164)・・・老化を治療する(その2)

 現在市販されている薬(内服薬、約3000種)の中で、寿命を延ばす作用を持つと老化研究者らが認めている薬はラパマイシンとメトホルミンの2つである。

 ラパマイシンは現在、免疫抑制剤として、臓器移植後患者の拒絶反応抑制に使われている。ラパマイシンは動物実験でマウスの老化を遅らせ、寿命を延ばすことができると証明されている。2014年には、ラパマイシンの濃度が高いほどマウスの中間寿命がより長く延びたこと、またその効果には性差があって、メスのほうで顕著であったことを報告された。薬の試験で、使用した量に従って特定の効果が出るということは、特定の効果がその薬の作用によるものであることを強く示すことになる。

 TORは夕—ゲット.オブ.ラパマイシンの略語で、細胞内のたんぱく質、脂質、核酸などの分子の合成にかかわっているという。細胞内の栄養やエネルギーの状態を検知して、細胞の「数」を増やすのではなく、分子の合成を通じて細胞を「成長」させることにかかわるたんぱく質だという。

 ラパマイシンを投与しmTOR(哺乳類TOR)の働きを抑えるとたんぱく質合成が少し落ちる状態になる、この作用が抗老化に結びつくという。マウスの実験ではラパマイシンには老化に伴う体の働きの低下や病気の始まりを遅らせる効果もあり、脳、腎臓、筋肉、心臓免疫系の機能を改善した。さらに重要なのは、中年や老年になってからラパマイシンを与えても、寿命を延ばす効果があったという事らしい。

 ラパマイシンは免疫抑制剤であるので通常は一般の患者には使えない。そこで、メーカーはラパマイシンの誘導体ラパローグを開発して、抗老化薬としてものにしたいと、しのぎを削っている。

 メトホルミンは糖尿病治療薬で、世界的に糖尿病の一番最初に使用することを推奨されている薬である。メトホルミンは、寿命を延ばすAMPキナーゼを活性化しつつ、寿命を縮めるmTORを抑える(小食が寿命を延ばすメカニズムと同じだ)。AMPKを活性化させることにより、NAD (ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の濃度を上昇させ、サーチュィンのような老化への防御機構全体を始動させる。病気の上流でサバィバル回'|路を働かせ、代謝を抑えることで、あらゆる器官が若く健康でいられるようにするという。

 メトホルミンは60年以上前から、安全に使用されてきた。その安全性に加えて、新しい臨床試験により、メトホルミンを飲み、他にも病気を抱えている糖尿病患者の死亡率は、他の糖尿病薬を飲んでいた糖尿病患者の半分だった。いくつものデーターがある。「糖尿病予防プログラム」という無作為化臨床試験では、メトホルミンによってあらゆる年代の大人3000人以上の2型糖尿病の発病が、偽薬より31%減った。また「英国プロスペクティブ糖尿病研究(UKPDS)では、メトホルミンが従来の治療より、2型糖尿病患者の糖尿病関連死のリスクを42%下げた。心臓血管疾患になる人が偽薬より40%少なかった。

 がん発症や、がんに関連した死亡率もメトホルミンで減少することが、いくつかの疫学研究で示されている。メトホルミン効果についてのさまざまな研究を分析すると、がん発症は31%減り、がんに関連した死亡は34%下がった。また、メトホルミンは乳がん、結腸がん、すい臓がん、前立腺がん、肝臓がん、肺がんに有効だとわかった。これはメトホルミンが老化そのものに効くことを示している。これらのがんに共通するリスクは老化だけだからだ。認知低下に関しては別の臨床試験で、軽度認知障害(MCI)のある糖尿病ではない被験者とうつ病を患う2型糖尿病患者に認知能力の改善が見られた。観察研究の報告によれば、認知機能障害になるリスクが51%下がったという。

 メ卜ホルミンはミトコンドリアの酸化経路を適度に調節し、その結果として、インスリン感受性の改善と自食作用の誘発という代謝的適応が起きる。別の面では、ミトコンドリアの活性低下は酸化ストレスとDNA損傷の予防にもつながるので、細胞と組織が生物学的に若くなる。いいかえれば、メトホルミンには細胞を回復させる効果があるため、結果的に病気の発症が遅れて健康寿命が延びるという事になる。

 メトホルミンを抗老化薬として、認めるべきだという主張も強まっている。
(参考文献:菜の花通信No186で紹介した4冊の本)

 

令和4年1月26日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦