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指宿 菜の花 通信(No183) 田舎医者の流儀(158)・・・長寿をもたらす薬

 現在一般に使われている医薬品の中で長寿をもたらすことが証明された薬が2つある。一つは「ラバマイシン」という臓器移植後、免疫抑制剤として使われる薬、もう一つは2型糖尿病の治療に広く使われる「メトホルミン」という薬だ。

 ラバマイシンは巨大な石頭像で有名な「イース夕―島」で見つかった新種の放線菌から得られた。当初、抗真菌薬として研究が始まったが、間もなく強力な免疫抑制機能があることが明らかになった。臓器移植後は拒絶反応が起こり、術の成否を左右する大問題だ。ラパマイシンは免疫反応を抑えて、臟器が確実に受け入れられるようにしてくれる、なくてはならない薬だ。

 このラパマイシンは、人の生命も延ばしてくれる可能性が示唆され始め研究が始まった。近年の研究から、ラパマイシンはただの抗真菌性化合物でもなければ、単なる免疫抑制剤でもないことが突き止められている。寿命を延ばす働きをもつことが、様々な動物を使った実験によって確認されているのだ。ただ、ラバマイシンは免疫抑制剤であるので、臓器移植を受けた患者にしか使えない特殊な薬である。そこで、ラバマイシンの寿命延長作用に特化したラバマイシン類似薬「ラパログ」の開発が進められている。

 もう一つの「メトホルミン」は糖尿病の薬として広く使われている。2型糖尿病の治療をする場合、世界中でまず最初に処方される薬だ。私の糖尿病外来患者さんには殆ど使っている。一部にお腹の調子が悪くなり、使えない方もいるが可能な限り処方している。1950年代の半ばより、ガレガソウという植物の主成分グアニジンの誘導体が2型糖尿病の治療薬として使われるようになった。長い歴史を持つ薬なので安価でどこでも手に入る薬だ。

 数年前、ある研究者がメトホルミンを服用している患者は、そうでない人より健康状態が良さそうだと気づいた。動物実験が行われ、マウスの寿命が6%延びること、齧歯類にメトホルミンを与える研究26件のうち、25件でがんの予防効果が確認された。臨床的にも、68歳から81歳までのメトホルミン服用者4万1000人あまりを対象に、9年間の追跡調査を行なわれた。その結果、服用者のあいだで、認知症、心血管系疾患、がん、虚弱、うつ病になる確率がメトホルミンによって低減されることが確認された。老化に関する研究は世界中の学者がしのぎを削っている。日本でも十分な研究費が調達され、研究の発展が望まれる。
(老いなき世界 デビッド・A・シンクレア/マシュー・D・ラプラント著 東洋経済新報社)

 

令和3年11月24日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦