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コロナ危機  ―医療現場と報道の解離―

 2020年は、オリンピックイヤーです。
  誰もが新年を迎えるにあたって、春以降は、オリンピックとパラリンピックの話題で日本社会は盛り上がりを見せると予想していたことでしょう。新年号で今年は外国人患者に対する医療現場の対応を充実させることが必要と述べましたが、昨年末、中国武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延し、パンデミックになったことで事態は一変しました。

 2月には、クルーズ船 “ダイヤモンド・プリンセス”号の船内感染拡大により、関東圏内の医療機関で感染患者を収容するために、災害支援チーム:DMATが出動しました。
クルーズ船の乗客・乗員約3700人の内、700人以上が感染し、通常の救急隊だけでの対応が困難になったためです。感染者の治療にあたっている医療従事者は大変な苦労を余儀なくされているはずですが、マスコミ報道ではその実情は全く伝わってきません。

 3月になっても事態の収束がつかないため、国は学校の休校要請やイベント開催の自粛を呼びかけました。アジア、ヨーロッパ、アメリカなど既にパンデミック状態と言えますが、日本ではまだ、緊急事態宣言には至っていません。各国の感染症対策は千差万別で韓国で行われているドライブスルー型のPCR検査がイギリスや米国で導入されたことには違和感を覚えます。日本はPCR検査が他国に比べ少ないと報道されますが、インフルエンザの様な簡易検査キットが開発途上の段階で、正確なPCR検査がドライブスルー方式で果たして可能か、偽陰性者の対応はどうするのか、疑問が残ります。

 そもそも武漢でアウトブレイクした原因のひとつに、軽症者も病院に殺到したことがあります。病院内でクラスター感染が繰り返し発生した可能性が高いと思われます。当初は、新型コロナ感染症に関して情報が少なかったことから仕方ありませんが、麻疹のような空気感染はせず、飛沫感染や接触感染によることがわかってきました。また、軽症者の8割は通常の感冒(風邪ウイルス症)と同じで、自然治癒すると言われています。

 マスコミ報道では、医療現場の正確な状況が伝わらないもどかしさを感じているのは私だけでしょうか。一部の評論家が、体調不良者全員にPCR検査を行うべきとする論調には賛成しかねます。 医療現場の負担を考慮すると、現在までの日本方式は評価できると私は思います。インフルエンザと異なり、ワクチンや抗ウイルス薬がない現在の状況では、重症者の治療に専念することが重要です。そして国民一人ひとりが感染予防に努め、他者に感染させない配慮をすることが必要ではないかと思います。私見ながら日本人はその様な冷静な行動ができるのではないかと思います。

 

令和2年3月16日

 国立病院機構指宿医療センター 院長
 鹿 島 克 郎